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名古屋高等裁判所 昭和58年(ネ)689号 判決

控訴人

山田花子

右訴訟代理人

青木茂雄

池田伸之

被控訴人

名古屋高等検察庁検察官検事長

鎌田好夫

主文

原判決を取り消す。

昭和五八年三月一一日付名古屋市緑区長に対する控訴人と訴外山田正男(本籍名古屋市緑区○○○×丁目×××番地)との離婚は無効であることを確認する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

控訴人訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決を求め、被控訴人は本件口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したものとみなすべき検察官鈴木芳一名義の答弁書には「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」旨の判決を求めるとの記載がある。

当事者双方の事実上の主張及び証拠は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人)

1 昭和五八年三月一一日届出にかかる離婚届は、控訴人が真実夫・正男と婚姻関係を解消したいという意思から届出たものではなく、同人が翻意して婚姻外の異性関係を絶止し、控訴人のもとに復帰してくれることを眼目として届出たもので、控訴人にも実質的な離婚意思がなかつたものである。

2 本件訴の提起は信義則に反するものではない。即ち、離婚という事態は控訴人が作出したものではあるが、そのような事態に追いこんだのは、亡正男のほうである。控訴人と亡正男の兄弟とは現在でも親戚付き合いを続け、控訴人が中心となつて亡正男の法要等も行なつているのであつて、控訴人が離婚無効を主張するのは今後も亡正男の妻として生きたいためであつて財産目当等邪まな目的によるのではない。

(新たな証拠)〈省略〉

理由

一〈証拠〉によれば、控訴人は昭和四四年七月二三日山田正男と婚姻の届出をし、同人との間に一郎(昭和四六年四月二五日生)、いずみ(昭和四七年六月二六日生)の二子をもうけたが、昭和五八年三月一一日、右二子の親権者を控訴人と定めて協議離婚する旨の離婚届を名古屋市緑区長に届出したところ、これが受理されたこと、正男は昭和五八年四月七日死亡したことが明らかである。

二控訴人は正男に無断で右離婚届を作成して届出たものであると主張するので審按するに、前記甲第三号証からその存在が窺われる離婚届、証人山田次男の証言によつて正男の作成したと認められる甲第八号証中の同人の氏名部分、原審及び当審における控訴人本人の供述並びに鑑定人小牧大助の鑑定の結果によれば、控訴人は、昭和五八年三月初めまで名古屋市緑区○○○×丁目×××番地に夫・正男と同居していたが、同人が他の女性と情交関係を生じたので、憤懣やる方なく、同月上旬子供を連れて家出すると共に、夫・正男とは一度も離婚については話合つていなかつたのに、勝手に離婚届用紙の事項欄に所定の事項を記載し、届出人夫の押印欄に夫の印鑑を冒捺して協議離婚する旨の離婚届を作成し、同月一一日名古屋市緑区長に右離婚届を提出したところ受理されたことが認められる。

また、正男が生前離婚の事実を知つてこれを承認したと推測すべき事情も証拠上見当らない。

右事実によると、控訴人は夫・正男の不知の間に擅に離婚の届出をしたものであつて、控訴人、正男間に離婚の合意が認められないから、協議離婚は無効のものといわなくてはならない。

三ところで、本件は正男から離婚の無効が主張されたものではなく、届出の本人が、しかも婚姻が夫の死亡により解消した後に主張するものである。夫又は妻が、一般に、配偶者が死亡すると相続、遺族年金等の権利を有し、離婚した配偶者がこれを有しないことなどを思うと、当の行為者からのかかる主張を許容することは、信義則上、問題がないではない。しかし、離婚の有効・無効のごとき身分行為の成否は、主張者の如何、動機等に拘らず、原則として一律に決すべきであるから、控訴人と正男の離婚が前記のとおり夫・正男の意思を欠く無効なものである以上、控訴人がこれを主張することも許されるというべきである。

よつて、これと結論を異にする原判決を取り消し、控訴人の請求を認容し、訴訟費用の負担について民訴法九六条、九〇条を適用して、主文のとおり判決する。

(竹田國雄 海老澤美廣 笹本淳子)

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